2010年制作の香港映画。出演はルイス・クー、ホアン・イー、カレン・モク。
事故で人を轢き殺してしまったトラック運転手と、夫に先立たれ生まれてくる子どもと共に残された女性。そして、事故により恋人との間の大きな溝に気づいてしまったトラック運転手の恋人。悲劇によって運命を狂わされた3人の物語。
ジャケットだけ見たら車が載ってるからロードムービーかと思ったよ。
ざっくりしたあらすじ※ネタバレ注意
中国のとある田舎町で中華料理屋を営む張謙は、病院にいる妻の陸茵から妊娠を告げられ有頂天になる。
配送で中国にいた長距離ドライバーの許城亮は、8年付き合っている恋人のスーザンと翌日婚姻届を提出する予定だった。
その日の夜、張謙は急に入った出前の注文を受けて配達に出ていた。その帰り、許城亮が運転していた大型トラックと衝突し、搬送された病院で亡くなる。
交通課からの事情聴取を受けていた許城亮は非常に強いショックを受けており、その日は警察署で寝泊まりすることになった。
翌朝、迎えに来たスーザンと共に弁護士と今後の話し合いをする。その後、許城亮は弁護士と遺族の話し合いを耳にし、亡くなった男の妻が妊娠したばかりだったことを知る。罪悪感を募らせた許城亮は遺族に直接謝りたいと思うようになる。
事故後の手続きが終わり、生活も落ち着いてきた頃、許城亮は配達の途中で事故現場を通りかかり、その近くにある亡くなった男の中華料理屋を目にする。そこでは夫の妻陸茵が妹の小娟と二人で店を切り盛りしていた。
事故のことは忘れろと周囲に言われていた許城亮だったが、どうしても遺族のことが気に掛かり自分の名前を明かさず店に通うようになる。
スーザンは許城亮が事故から抜け出せずにいることに気づきながらもいつも通りに振る舞っていたが、許城亮が慰謝料の他に多額の金銭を陸茵に渡そうとしていることを知り、二人の関係が崩壊する。
さらに、あるきっかけで許城亮が事故の加害者であることを陸茵が知ってしまう。張謙の弟とその仲間からリンチされた許城亮はボロボロの状態で、陸茵と張謙の母親に謝罪しその場を立ち去る。
許城亮を病院に連れて行ったスーザンは、ひとりで陸茵のいる中華料理屋に行き許城亮が彼女に教えたであろう料理を食べて全てを悟る。スーザンが許城亮の恋人であることに気づいた陸茵は、許城亮が送ってきた金をスーザンに手渡して彼に返すように告げる。
その日の夜、スーザンは家の鍵と陸茵から預かったものを許城亮に渡し、彼に別れを告げた。
その後、許城亮は仕事を辞め陸茵の元に向かったが、中華料理屋は既に閉店していた。許城亮は亡くなった男の母親の元に行き陸茵の子供と会う。そこで陸茵が今は別の場所で新しい生活を始めていることを知る。
陸茵に会いに行った許城亮は改めて彼女に謝罪するが…
ざっくりした人物紹介と相関
許城亮
演:ルイス・クー(古天樂)
大型トラックの長距離ドライバー。配送から戻る途中で自転車との交通事故に遭遇し、相手の男性を死なせてしまう。8年間付き合っている彼女スーザンと結婚する予定。自然が好きで家庭菜園が趣味。料理が得意。
陸茵
演:ホアン・イー(黃奕)
中国の田舎町で中華料理屋を営む張謙の妻。夫に妊娠を打ち明けた数日後に張謙が交通事故で他界。妹の小娟と二人で中華料理屋を引き継いでいる。
スーザン
演:カレン・モク(莫文蔚)
許城亮の恋人。不動産屋の営業マンで、過酷な競争社会に身を置いている。向上心が強く、ブランド物が好き。自分の家を持つことが夢。
張謙
演:イン・シャオテン(印小天)
陸茵の夫。父親になると知り喜んだのも束の間、許城亮が運転していたトラックに轢かれて死んでしまった。
ざっくりとした所感
ジャケットと予告からロードムービー的な作品だと思って観てみたら全く違った。全然その場所から動こうとしない男の話だった。
制作者はおそらく悲しいラブロマンスを作りたかったのだと思うが、正直何がしたいのかはっきりしない内容で印象に残らない作品である。
人ありきで物語が動いているのではなく、あらゆる出来事や登場人物が物語を進めるためだけに存在しているようにみえた。そうなると、人物の行動が場当たり的になり人物像に深みがなくなる。
その際たるものがヒロイン陸茵の妹の小娟で、彼女はただ許城亮と陸茵が近づくためだけにいる人物だった。出てくる時間やセリフが多かったわりに印象がほとんど残ってない。また、彼女が許城亮と陸茵のコミニュケーションをショートカットしてしまったために、二人の関係性も薄っぺらくなっていた。
また、陸茵の亡くなった夫の弟もただ殴れる人間が欲しかったと言わんばかりの立ち回りで、何もかもが浅い。
許城亮の正体が陸茵にバレてしまう流れも不自然だった。
寒いからジャケットを陸茵にかけてあげるのはわかる。しかしその後、ジャケットのやりとりがあってから数分も経たないうちにジャケットのことを忘れてそれぞれ帰っていき、ポケットの中に入ってた身分証で許城亮の正体がバレる、という流れはありきたりというか脚本家の怠慢すら感じた。
主人公の許城亮も自己憐憫と自分への擁護に終始徹していて、自分の不安と罪悪感を被害者に対する責任感に変換していて見苦しかった。そりゃ彼女のスーザンも愛想を尽かすわ。
許城亮が陸茵に執着していたのも、彼女が自分の理想の生活をしていたから彼女の生活を乗っ取ろうとしていたようにも見えるし、スーザンとの間に情熱が無くなったことを無自覚に理解していて陸茵に乗り換えようとしているようにも見えた。ようするに、許城亮からは誠実さが感じられなかったため、恋愛風なものを見せられても何も感じなかった。
むしろ加速する執着心が恐怖ですらあった。夫の店を閉めてわざわざ新天地でやりなおそうとしている陸茵を追いかけ、彼女の勤務先まで押しかける。階上の彼女を見上げる許城亮の表情はストーカーにしか見えなかった。しまいには「君の夫を轢いたのが俺じゃなかったら…」とか言い出す始末。オチも他人の交通事故現場を目撃するというよくわからんことになってて、許城亮が陸茵の気をひくために突き飛ばしたんか?とすら思えた。ラブロマンスに見せかけたサイコサスペンスだったのかもしれない。いや、交通事故のシーンがやけにリアルだったのでもしかしたらホラーだったのかもしれない。
それはともかく、許城亮は相手に執着して自分の生活や関係性を崩壊させる前に、まずはカウンセリングを受けた方がいい。
そんな感じで脚本、演出、キャラクター全てがどこかで見たことあるような平凡で薄っぺらいものだったが、カレン・モク演じる許城亮の彼女スーザンは自立心があり、自分の感情や要求に忠実でキャラクターがしっかりしていた。この作品、許城亮と陸茵の関係性よりも、許城亮とスーザンのすれ違いを中心に描いた方がよほど面白いものになってたと思う。