1996年に香港で制作された映画。デビューして2年後ぐらいのルイス・クー主演、ロー・カーインやロー・ランなどのベテランが脇を固める。ヤクザものにラブロマンスとオカルトを混ぜ合わせた低予算映画ならではのアイデア作品となっている。
パッケージの写真に写ってるバイクは白地に青のライナーが入ったHONDAのNSRなんだけど、実際に映像で使われてたのは赤地の車体だった、そしてちゃんとヘルメットを被ってた。えらいぞ。
Contents
ざっくりしたあらすじ※ネタバレ注意
マカオの夜。賭博場の外に出てきた高利貸しの貴利富(ホー・カクー)はバイクに乗った男・榮(ルイス・クー)に襲われる。命に別状はなかったものの、顔を傷つけられた貴利富は復讐のために榮を探す。
榮は翌日、自分に命令を出したボスの爛鬼發(ロイ・チョン)と会っていた。ボスから香港の隠れ家に身を隠すように言われた榮は、ボスからの金を受け取らずマカオから姿を消す。
数日後、香港の一角で葬儀に使う紙細工(紙紮)を作っている珊(シャーリー・チャン)は一人の青年・榮と出会う。彼は珊がいつも作っている男性型の紙人形によく似ていた。隣の部屋に引っ越してきた榮とは出会いこそ最悪だったが、珊の祖父であり盲目の老人、方嘯天(ロー・カーイン)のやや強引な誘いにより、榮と珊は距離を縮める。
数日が過ぎたある日、榮の部屋にデザートスープを持ってきた珊が榮と話しているところに、榮の彼女と自称するCandyが現れ、一悶着が起きる。珊と気まずい雰囲気になった榮だが、急きょボスから呼び出され、マカオに戻ることになる。
珊が働いている紙紮屋の店主、蘭(ロー・ラン)は道術の心得があり、珊が恋をすると何か不幸なことが起こることを予見していた。彼女は珊のために護符でできたお守りを作り、珊に決して外さないように言い聞かせて渡す。
マカオに戻ってきた榮だったが、指定された船に行くとそこには貴利富とその一味が榮を殺そうと待ち構えていた。命からがらなんとか逃げおおせた榮は、再び香港の珊が住むアパートまで大怪我を負ったまま這い戻ってきた。榮を見つけた珊は病院を嫌がる榮を部屋まで連れていき、手当てをする。榮の身を案じた珊は、蘭からもらったお守りを榮に渡す。
その夜、逃げ延びた榮を狙って爛鬼發の一味がアパートに乗り込んできた。屋上で爛鬼發と向かい合った榮は、割ったビール瓶の鋒を爛鬼發の喉元に突きつける。そこへ、榮を心配して戻ってきた珊が屋上で揉めている榮を見つけて間に割って入る。一瞬の隙をついて榮を突き飛ばした爛鬼發は、手にしたパイプで攻撃を仕掛ける。
警察のサイレンを聞いた途端に一味は逃げていったが、爛鬼發の攻撃を受けてしまった珊は致命傷を負う。動けなくなった珊を抱えてバイクで病院に向かう榮だったが、その途中で珊は力付き命を落としてしまう。
翌日、何も知らない方嘯天に事の顛末を話そうとした榮だったが、珊に朝ごはんを作ってもらったと話す方嘯天に何も言えず、その場を立ち去ろうとする。そこへ現れた蘭は方嘯天と珊を案ずるそぶりを見せつつ、榮に全てを知っていると話す。
翌日、自分の部屋で目が覚めた榮は自分の衣類が丁寧に畳まれ、その隣に珊が持っていた人形が置かれていることに気が付く。物音がして台所に向かった榮は宙に浮かぶ皿と布巾を目にする。途端に皿と布巾が床に落ちて割れる。
その日の午後、蘭と榮は珊の骨を納骨堂に納める。その際、榮の首にかけられた護符のお守りを見た蘭は、そのお守りを珊に渡した理由を話し始める。
榮が今朝台所で見たことを蘭に話すと、彼女は珊の年齢を元に彼女の魂が今どこにいるかを計算し、魂を迎える準備をすれば明日の夜明けまでに彼女の魂と会えるかもしれないと榮に教える。
その夜、珊の魂と再会した榮は彼女と愛を確かめ合い、束の間幸せなひとときを過ごした。しかし、幽霊である珊は冥界に戻らなければならない定めがあった。なんとか彼女を留めたい榮は再び蘭に相談する。
榮と珊が冥婚(死人と人間との結婚)をすれば、珊は孤独に霊界を漂うことなく榮と死後に結ばれると蘭は榮に教える。しかし、その代償として榮は生きている間の福と寿命を失うことになる。
珊と冥婚をすることに決めた榮だが式の途中で一悶着あり、榮と珊は方嘯天が全てをわかっていたことを知る。冥婚を済ませた珊を冥界からの使者が迎えにくる。
珊を見送った榮は、珊が生前作った紙人形を燃やしながら爛鬼發に復讐を誓いマチェットを握りしめる…
ざっくりした人物紹介と相関
榮
演:ルイス・クー(古天樂)
マカオで黒社会の一員として生活している若者。ボス(爛鬼發)の命令で高利貸しの富を切りつけたことで追われる身となり、香港のアパートの一室に隠れていた。ある出来事がきっかけで隣の部屋に住む二胡の歌手、方嘯天とその孫の珊と懇意になる。孤児院で育ったため両親は知らない。
珊
演:シャーリー・チャン(張玉珊)
盲目の老人方嘯天と共に暮らしている19歳の孫。寡黙だが芯のしっかりした娘。部屋にこもっては思ったことを人形の盈盈に語りかけている。アパートの向かいにある紙紮屋(葬儀に使う紙細工)で人形や車などを作っている。両親は事故で他界している。
方嘯天
演:ロー・カーイン(羅家英)
二胡の歌手として廟街(テンプルストリート)で毎晩歌っている盲目の老人。本人曰く元は黒社会の人間で、大陸から渡ってきた。若い頃はハンサムでマダムキラーだったらしい。
爛鬼發
演:ロイ・チョン(張耀揚)
榮のボス。榮に商売仇である貴利富を襲わせたあと、貴利富と手を組み榮に襲い掛かる。
Candy
演:チェリー・チャン(陳少霞)
爛鬼發の妹。一方的に榮に惚れているが、榮からは恋愛対象として見られていない。
蘭姨
演:ロー・ラン(羅蘭)
珊が働いている紙紮屋の店主。道教の心得があり、珊が不幸に見舞われることを予見して彼女に護符のお守りを渡した。
貴利富
演:ホー・カクー(何家駒)
高利貸し。爛鬼發から差し向けられた榮に怪我をさせられたことを根に持ち、榮を探していた。後に爛鬼發と手を組む。
ざっくりとした所感
1996年制作なので、ルイス・クーが映像デビューして2年目、26歳の頃の作品。
この頃はすでに小麦色になっているが、若干幼さの残る顔立ちに今ではかなり珍しいセンターパーツ寄りの長い前髪が印象的。
動きや表情のひとつひとつが大仰で、今よりもだいぶ演技が大きい。若干顔芸っぽいところもある。20代の作品とあって複数人とのアクションシーンが多く、荒々しい。勢いで撮っている感じがする。よく見ると、絶対切られている距離でも避け判定になっているところがある。スローモーションを使ったりわざと手ブレをさせてスピード感を出しているが、正直なところただ見づらいだけだったりする。ちなみにSEXシーンも同じような感じで撮っているので、何をしているのか雰囲気でしか分からない。ところで、事後も服を着たままなんだが、この頃の香港映画のレーティング対策か何かなんだろうか。
個人的にヤクザものに付属するアクションやラブロマンスはおまけ的な感じであまり好みではないのだが、ここにオカルトが入ったことで一気に自分好みになった。全然相手にされてない自称彼女とかオーラのないボスとか雰囲気ヤクザ物語が中盤まで続いていたが、ヒロインが死んでからが本番と言わんばかりに、突然幽霊やら仏教の六道の話やらが出てきて予想外の展開が始まる。紙紮(葬儀に使う紙細工)屋で霊媒師を演じるベテラン女優のロー・ランがヒロイン珊の魂を現世に引きとどめておく方法を説得力たっぷりにルイス・クーに伝える時点ですでに面白い。
準備万端で珊の魂が出てくるのを待ってソワソワしているルイス・クーも面白いが、その後自分の胸に書かれた関羽の入れ墨を消すため硫酸で(どこから手に入れた??)入れ墨を溶かす発想が斜め上すぎる。その後に展開される珊との情感たっぷりなSEXシーンも硫酸のインパクトでシュールに感じる。
その後も面白状況は続き、珊があの世に行ってしまう前にルイス・クー演じる榮と冥婚しようとするシーンで、結婚式の途中で割り込んできた自称彼女(なぜこの場で結婚式をしていたことを知っていたのかは不明)が主人公含む全員から総スカンを食らった後、所在なさげに空気化する。なんでこのキャラをこのシーンに入れたんだかマジで謎。
そして感動のラストシーン。珊の祖父が老々と歌い上げる歌唱に乗せて復讐の怒りに燃えた榮がマチェットを片手に自分の元ボスに復讐するシーン。一対多数のメチャクチャなアクションシーンを乗り越え、最後にガスボンベを持った元ボスと一緒に焼却炉に突っ込んで大爆発。幽霊となった榮は、紙細工でできた赤いベンツに乗って現れた花嫁姿の珊と一緒に仲睦まじくあの世へ行って終幕。
全体的にチープで、シーンごとの繋げ方が雑な作品ではあるが、ただただ勢いとアイデアだけで乗り切った感と爽やかな後味とシュールさがとてもクセになる映画であった。90年代の雰囲気が色濃く残った室内や街中の雰囲気、日常的に行われる宗教色の強い儀式など、背景に映る景色も興味深い。