まるで舞台のような緊急病棟『ホワイト・バレット』

ジョニー・トー監督作品。緊急病棟を舞台にしたワンシチュエーションのサスペンススリラー。
出演はヴィッキー・チャオ、ルイス・クー、ウォレス・チョン。ラム・シュー、ロー・ホイパンらが脇を固める。

ざっくりしたあらすじ※ネタバレ注意

とある病院の緊急外来。脳外科医のトン(ヴィッキー・チャオ)が開頭手術をしている。

手術後、研修医たちを連れて主任医師のフォウ(エディ・チャン)と共に入院患者たちの病状を説明している。その中の一人、20代の患者フン(ジョナサン・ウォン)はトンが執刀した手術で四肢が麻痺しており、トンを激しく憎んでいた。トンに罵声を浴びせ、唾をかけるフン。

その数時間後、一人の青年シュン(ウォレス・チョン)が運ばれてきた。手錠をはめられている。後方には大勢の警官の姿。
シュンは強盗殺人の犯罪グループの一人で事件の重要参考人であった。
頭部に銃槍があり、脳内に薬莢が残った状態で運ばれてきたシュンは、6時間以内に手術をしなければ植物状態は免れない状況にあった。しかし、シュンは手術を拒否。病院側は仕方なく彼を病棟に移す。

シュンは逃げるための算段を整えるため、病棟内にいるあらゆる人間を言葉で煽り混乱を起こそうとする。シュンからなんとかして犯人グループの居場所を吐かせようとする高圧的な刑事チャン(ルイス・クー)にはわざと仲間につながる電話の番号を教えてやり、捜査を撹乱する。次に隣のベッドの認知症患者の老人チョンを拘束具から逃してやり、看護師たちの意識を逸らそうとする。

一方、トンは主治医として執刀した脳開頭の手術に失敗し、情緒不安定な状態になっていた。主任に帰るよう命じられていたが、シュンが痙攣を起こしたと知り再び病棟に戻る。なんとか彼に手術を受けさせたいトンは、警察官たちが制止するのも厭わず、彼が刑事に教えた電話番号に電話をかけてしまう。電話越しに自分を撃った刑事の名前を出し、報復するよう指示するシュン。トンは自分が罠に嵌められたことを知り慌てて病棟から逃げ出すが、状況を知り激怒したチャンから執拗に追い詰められ、捜査に協力するよう強要される。

チャンには部下に違法発砲の指示を出したという負い目があり、それを隠すために証拠を偽装し、事件を解決しようと躍起になっていた。シュンを殺そうとトンを巻き込み罠を仕掛けようとするチャンだが、病院の場所を特定した犯人グループたちは襲撃のチャンスを伺っていた…

ざっくりした人物紹介と相関

トン医師(佟倩)

演:ヴィッキー・チャオ(趙薇)

緊急外来の脳外科医で若くして副主任になった医師。自らの努力で現在の地位を勝ち取ったという自負があり、傲慢な言動を繰り返す。弱みを決して見せない性格が仇となり、自らを追い詰めることになる。

チャン刑事(陳偉樂)

演:ルイス・クー(古天樂)

強盗殺人の犯罪グループを追っている主任刑事。高圧的で強引なところがある。シュンの尋問中、部下に違法な威嚇発砲をさせようとしたところ頭部に発射してしまい、事件を誤魔化そうと躍起になっている。

シュン(張禮信)

演:ウォレス・チョン(鍾漢良)

強盗殺人の犯罪グループの主格。狡猾で弁が立ち、心理戦に長けている。尋問中に頭部を撃たれたが奇跡的に一命を取り止め、入院中に脱出する算段を立ててチャンやトンらを混乱させようと試みる。脳内に薬莢が残っており、6時間以内に手術をしないと取り返しのつかないことになる。

チョン(鍾伯)

演:ロー・ホイパン(盧海鵬)

シュンの隣のベッドの患者。認知症を患っており、徘徊と鍵を盗む行為を繰り返しているため拘束具を付けられている。

フン(洪生)

演:ジョナサン・ウォン(王梓軒)

トン医師の患者。術後、四肢に麻痺が残ってしまい自暴自棄に陥っている。執刀したトン医師を激しく憎んでいる。

フォウ医師(霍顯輝)

演:チョン・シウファイ(張兆輝)

緊急病棟の脳外科医で主任医師。強情で堅物なトン医師に手を焼いている。

ふとっちょ(肥佬)

演:ラム・シュー(林雪)

巨漢の刑事。愚鈍でそそっかしく、病院内で手錠の鍵を落とす。

スーツの男

演:マイケル・ツェー(謝天華)

シュンの弁護士として病院に現れた男。

チャンの上司(黃勝)

演:ジョニー・トー(杜琪峯)

チャン刑事の上司。最後のシーンで声のみ出てくる。

ざっくりとした所感

優秀な医師であっても、全ての手術が成功するとは限らない。また、人間である以上常に自制心をコントロールできるわけではない。あらゆるストレスに曝されて分別が付かなくなっている医師トンと、自らのミスを挽回しようと躍起になる刑事チャン。対するは人の心理を突くことを得意とする容疑者のシュン。

舞台となる病棟は、患者たちが中央のナースセンターから放射線状に並べられ、まるで網走監獄のような変わった作りになっている。ある意味で閉鎖された場所で起こるワンシチュエーションスリラー。ジョニー・トー作品らしくフィジカルよりもメンタルで戦う。

そんな作風もあって中盤まで一筋縄ではいかない登場人物たちにイライラが募る。個人的にはチャン刑事がトン医師を三段平手打ちしたあたりから面白くなってきた。全員ストレス溜まりすぎてキマリまくってる。ラストの銃撃戦の奇妙さは精神が限界突破したみたいで悲惨だけど笑える。

基本的に神経を逆撫でするような人たちばっかり出てくるけど、ロー・ホイパンとラム・シューが癒し系キャラとして君臨しているので若干コメディーっぽいところがある。ルイス・クーは終始真面目な顔で怒ってる。

ところで、DVDのメイキングでウォレス・チョンの役名がシュンってなっててIMDbでもシュンなんだけど、ネットではチョンてなってた。本編で名前が出てこないから分からんのよね。

木野 エルゴ

自由と孤独を愛する素浪人。映画と旅行、料理その他諸々趣味が多い。俳優・声優の宮本充さんの吹き替え作品ファン。

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