アラン・マック、フェリックス・チョン監督作。ラウ・チンワン、ルイス・クー、ダニエル・ウー共演の『竊聽風雲』シリーズ3作目。作品ごとの関連性はないが、いちおう「盗聴」というテーマでは繋がっている。
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ざっくりしたあらすじ※ネタバレ注意
新界では、長兄に丁権という権利が与えられていた。これは生涯に一度だけ3階建までの住居を建てる権利を有するものである。この丁権によって建てられた建物を丁屋と呼ぶ。新界の長であるロク(ケネス・ツァン)は大陸の実業家であるマン(ホアン・レイ)と手を組み、甥のカムキョン(ラウ・チンワン)らを従えて新界の丁屋を買い漁り莫大な利益をあげようとしていた。
しかし、新界の農地を多く保有するユン(チン・ガーロウ)はロクたちのやり方に反対し、四大企業のまとめ役であるシト(ン・マンタ)と話を進めていた。カムキョンは兄弟のフー(アレックス・フォン)ボー(ラム・カートン)チュン(ドミニク・ラム)ザウ(ルイス・クー)にユンを消すための相談をする。誰もがやりたがらない仕事を自ら買ってでたのはザウだった。そしてザウは約束通りユンを轢き殺し、自らも片足を失い危険運転で刑務所に収容された。
ザウがユンを殺した本当の理由は、ロクの娘でかつての恋人ユー(ミシェル・イェ)のためであった。しかしユーはすでにマンのパートナーとなっていた。
ロクやマンとって邪魔な存在になりつつあるカムキョンたちを潰すため、ザウは刑務所で知り合ったハッカーのジョー(ダニエル・ウー)と共謀し、かつての兄弟たちに盗聴を仕掛ける…
ざっくりした人物紹介と相関
カムキョン(陸金強)
演:ラウ・チンワン(劉青雲)
陸国グループのトップであるロクの甥っ子。兄弟のリーダー格。ユンの未亡人ワーに惚れており、息子のための進学費を工面したり経済的な援助をしている。
ザウ(羅永就)
演:ルイス・クー(古天樂)
陸国グループのトップであるロクの娘ユーの元恋人。彼女のために計画の邪魔となっていたユンを殺害し、片足を失い5年間服役した。元囚人仲間のジョーと組んでカムキョンたちを盗聴する。
ジョー(阿祖)
演:ダニエル・ウー(吳彥祖)
ザウの元囚人仲間で腕利きのハッカー。ザウと組んでカムキョンたちを盗聴する。偶然知り合った村の女性ワーと親しくなる。
ユー(陸永瑜)
演:ミシェル・イェ(葉璇)
陸国グループのトップであるロクの娘。かつてザウと恋人同士で子供を身ごもっていたがカムキョンに堕胎させられた。その後、大陸の実業家であるマンと付き合い、新界の取引を病気の父に代わって執り行う。
ワー(阮月華)
演:ジョウ・シュン(周迅)
ザウに殺害されたユンの妻で、現在は新界の村で一人息子と暮らしている。飲食店を営みながら便利屋のようなこともしている。
ロク(陸瀚濤)
演:ケネス・ツァン(曾江)
陸国グループのトップ。新界の長であり土地に関する決定権を持っている。年老いてからは糖尿病に悩まされている。
マン(萬山)
演:ホアン・レイ(黃磊)
大陸の実業家。ロクと組んで新界の土地を買収しようとしている。ユーと付き合っている。
フー(陸永富)
演:アレックス・フォン(方中信)
カムキョンの兄弟のひとり。おかっぱ頭。喧嘩っ早く女癖が悪い。
ボー(陸建波)
演:ラム・ガートン(林家棟)
カムキョンの兄弟のひとり。パシリのような扱いを受けている。
フーの妻と不倫中。
チュン(陸永泉)
演:ドミニク・ラム(林嘉華)
カムキョンの兄弟のひとり。主に外回り。
ざっくりとした所感
香港の中でも英国の租借地であった新界。その独自の不動産環境が鍵となるこの作品。とはいえ、株を建物に置き換えただけとも言えなくないので話自体はそれほど複雑でもない。盗聴戦というタイトルだが、監視カメラの傍受、スマートフォン内のデータ閲覧など、盗聴に限らず情報量が多い。通信会社から電波や回線を提供してもらっているという設定があるお陰で、突拍子もない技術という感じがしない描写に好印象。
ただ、場面転換が多い割にはひとつのシーンが長いのでスピード感がなくダラダラした印象になった。正直、カムキョンの兄弟はそんなに多くなくていい。兄弟の絆の深さを表現したのが序盤の歌だけなので、ザウが兄弟を裏切る後ろめたさとかほとんど感じなかった。元からなかったのかもしれないが。歌で絆の深さを表現するならインド映画よろしく歌のバックで思い出のシーンを流した方が良かったと思う。
ユーお嬢様とユンの残された妻ワー(ジョウ・シュン)がどちらも独り立ちしたキャラだったのが好印象だった。これまでの香港ノワールの中では女性キャラの書き方がずいぶんマシ。
ラストの悪党ピタゴラスイッチ、なんであの場所にフーが突っ込んできたのか謎。カムキョンがあの隠れ家を突き止めたのはわかるけど、フーはどこであの場所を知ったんだろうか。オチありきで作ったようなラストシーンで、迫力はあったけど腑に落ちない結末だった。カムキョンの号泣はキャラの行動が二転三転していたせいもあってなんとも思わなかった。今まで見たラウ・チンワンのキャラの中でも微妙な感じ。チン・ガーロウとかラム・カートンもいい役者なのにキャラがしょぼくてもったいない起用の仕方だった。
ただ、ジョーがハッピーエンドだったのはせめてもの救いで、前作で殺されたダニエル・ウーが生きててよかった。
ところで、田舎を強調する登場人物たちのファッションとヘアスタイルの野暮ったさは、盗聴技術のハイテクさとの対比か。そして変な髪型と高級メガネというアンバランスさの中でも真面目に悲哀と色気を醸し出すルイス・クー。事故前のシーン、リーゼントっぽい髪型という田舎のヤンキーイメージはアジア共通なんだろうか。
それはともかく、個人的にあの隠れ家の内部装飾はとても気に入った。ああいうコンテナハウスを改造した建物はすごくいい。観葉植物っぽいのがいくつも使われてた気がするけど、あれはユーお嬢様の趣味だろうか…