劇団昴ザ・サード・ステージ公演「8月のオーセージ」

8月のオーセージ

原作:トレイシー・レッツ
翻訳・演出:田中壮太郎
上演期間:2019/12/05〜2019/12/18

アメリカ人が信じてきた概念「成功」「結婚」「男女の役割」「夫婦」「親子」文化の根幹にしてきたものの崩壊。成功を渇望してきた女性に残されたのは自分たちの先祖が過去に踏みにじってきた異文化への救いだった。

大雑把に言うとそんな物語に見えた。

というわけで劇団昴さんの「8月のオーセージ」を観てきた記録を残す。

あらすじ

著名な老作家(ベバリー)とその妻(バイオレット)が住む一軒家。ベバリーはアルコール中毒、バイオレットは薬物中毒の上に喉頭癌を患っている。ベバリーは先住民の女性(ジョナ)をハウスキーパーに雇うことにし、彼女に家の事を説明しているシーンから始まる。

ある日、べバリーが失踪したとの知らせを受けて、長女のバーバラと次女のカレンが家族や恋人を連れてやってくる。三女のアイヴィーに迎えられ、最初は穏やかに始まった集まりもバイオレットの登場で次第に綻びを見せ始め…

地獄の家族ゲーム

全員が自分の問題に手一杯で、見てて痛々しい。ただそんな悪足掻きも、はたから見ると滑稽に見えるから不思議。アイビーの決定的なシーンなんて、ストーリーを知ってるから凄く切なかったんだけど、みんな笑ってた。「あぁ、ここ笑うところなんだ」って。ちょっと意外だった。長丁場だけど終盤に向けてボルテージがぐんぐん上がるので、見終わってみると丁度良かったなという感じ。

バイオレット

一柳さんのバイオレット、想像通りに凄まじかった。晩餐での全員を完膚なきまでに叩き潰す威厳と敵意に説得力があった。これっぽっちも同情できる点なんて無いんだけど、そうなってしまった理由と言動が一致していて、ある意味で筋の通った人物に思えた。

バーバラ

バイオレットやビルとの言い争いが凄まじかったバーバラだけど、アイビーの秘密を漏らすまいとする行動があまりに考え無しすぎて。でもあの状態では打つ手無しだから仕方ないけど。にしても、もうちょっとどないかならんかったんか、と。

カレン

映画版のカレンがジュリエット・ルイス(「ギルバート・グレイプ」でヒロインやってた人)で、本当に最後まで世間知らずの空気読めない子って感じだったんだけど、今回のカレンは色々認めたくないんで空気読めない子を演じてるような気がした。それはそれでめっちゃ気の毒。

マティ・フェイ

マティ・フェイが映画版だったら多分あの裏の階段は通れない…じゃなくて、何処か知的な雰囲気が感じられたのは役者さんの雰囲気なのかなぁと思った。こういう風に見てしまうのは、先に他の媒体で見てしまった弊害だと思う。ただ、今回は一度きりの観劇だったので、ストーリーを知った上で登場人物がどういうリアクションをするか観察できてそれは良かったんだけど。

ジョナ

ジョナがスティーブをぶん殴るシーンがあるんだけど、先住民の女性が白人の成人男性を殴るっていうある意味時代の変化を象徴するシーンで、ジョナが思いの外事務的で笑った。

スティーブ

スティーブ、とても良かった。女をトロフィーとしか思ってないモラハラ男というのがあの短時間でよく出ていた。

チャールズ

個人的にチャールズ(父)が良かった。確かに事勿れ主義だったり、子供(ジーン)の主張を冷やかしたりあまり良い大人とは言えないかもしれないけど、もし彼が自分の息子の秘密を知っていたらこれ程慈悲深い人も居ないだろうと。

映画と舞台

同じ本から制作された映画「8月の家族たち」を公開当時に観ていたので、正直これをPitで上演するなんて、観るまで想像がつかなかった。場面転換は無理だろうからシーンを幾つかカットするだろうし、あの喧嘩のシーンどうすんのよ、と。でもあの小さく変形した舞台だからこそ、あの臨場感と観客の一体感が味わえたと思う。しかし一方で「狭い舞台」「よく動く」「掛け合いのスピードが速い」「舞台上にいる人間が多い」「長丁場」と、役者とスタッフにかかる負担と緊張感は計り知れなかったと思う。ただ、家族という設定上トチったり台詞が飛んでも許される部分はある気がするけど。というか、あの舞台を誰も一度もトチる事無く演りきるなんて無理だと思う。

チラシを見た時からキャスティングがぴったりと思ってたけど、想像以上で素晴らしかった。近くに座ってた男性が「ビル役の人、良い声だねぇ」と言ってた。これだけのスピードの会話劇で言葉の意味を理解できるクリアさをキープするって並大抵じゃない。大掛かりなプロデュース公演や新興の劇団では中々見られない技術の高さを見られるから、歴史のある劇団のお芝居って安心感がある。

終演後のポストトーク、翻訳する際の言葉のニュアンスや舞台の形についての説明、ロープの意味など興味深い話が聞けた。裏話好きとしては楽しいひと時だった。

終わりに

今回の作品を見ててNTLで上映してた「ヴァージニアウルフなんか怖くない」が思い浮かんだんだけど、あれを昴さんでみるのも面白いかもしれない。ただ、アメリカ人ならわかる〇〇が沢山出てくるので日本向けではないかもしれないけど。

木野 エルゴ

自由と孤独を愛する素浪人。映画と旅行、料理その他諸々趣味が多い。俳優・声優の宮本充さんの吹き替え作品ファン。

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