劇団昴「幻の国」

脚本:古川健(劇団チョコレートケーキ)
演出:日澤雄介(劇団チョコレートケーキ)
上演期間:2017/09/12〜2017/09/24
会場:Pit昴

東ドイツで活動していた秘密警察シュタージで働く人々と、市政の人たちを描いた物語。
「隣人を密告する」ということが日常的に行われている中で、人を信頼することの難しさを問う。

劇団昴のザ・サード・ステージ「幻の国」を見てきた感想。

会場のPit昴は狭いながらも客席と舞台をゼロから作れるという利点がある。この作品では部屋の長辺を生かしてシュタージの部屋と市民の部屋を横に並べた舞台装置になっていた。今回の座席はシュタージの部屋に近い右端。見た感じ、どこに座ってもある程度全体が見渡せるようになっていたと思う。

カタリーナの悲劇からシュタージ夫婦の会話へ、そこからアパートとシュタージ本部の二つの空間で物語が進行する。二つの部屋が並んで設置されてるのは以前同じ劇場で観たチャリングクロスと同じ作り。しかし、チャリングクロスが長方形の劇場の短辺に二つの部屋を並べているのに対して、今回の「幻の国」は長辺に二つの部屋を並べている。故に舞台の横幅がすごく広い。
事前にベストポジションを教えていただいてたお陰で、バッチリ全体が見られる席で見られた。舞台があまりに近くて、怒鳴られたり机を叩かれるたびにビクッてなってたけど。

さてこの作品、第二次大戦後の東西冷戦という複雑な背景を、人情劇寄りにもっていった事でより観やすい作品になった気がする。

まず、出て来る人がとにかくお人好しばかり。
アパート側の人々、密告される恐れがある状況の中で、あまりに迂闊すぎやしないか。たとえ仲の良い隣人であれ、協力者ではないと100%信じられるものなんだろうか。信頼しているシーンを見せる事で、後々の謝罪シーンを際立たせる必要があったからああなったのかな。

カタリーナも東ドイツが無くなるまで生き抜くといった割に、あっさりシュタージ協力者のマリアに告白してたり。ただ、純粋にマリアの事を気に入って、シュタージへの怨みよりも彼女を支える事を選んだのであれば、カタリーナにとってマリアは救いになったのかなと思う。

シュタージ側のメンバーはもっと掘り下げて書く事も出来たんだろうけど、アパート側に重きを置いていた様に見えたから、あれくらいわかりやすくあっさりしたキャラクターで良かったと思う。それ故にラストのルドルフの行動はちょっと唐突な感が否めなかったけど。

マリアはシュタージに加担(隣人を密告)する事で社会主義の為に貢献できると言っていたけれど、具体的にどう良くなると思って行動していたのか、そこがもっと見えたらなと思った。密告された者の末路を知っていたとすれば「善人」であるマリアがそれでも協力者として活動しただろうか。少なくとも感じていた後ろめたさ以上の成果ってなんだったんだろうか。

最終的にシュミット夫妻の謝罪で皆と和解して終わった様に見えたけど、被害者と加害者の意識が根底にある以上、決まりの悪さはずっと根底にあり続ける気がする。ハッピーエンドにはなり得ないだろうなぁ。

ソ連解体とベルリンの壁崩壊のニュースは確かに見てたはずなんだけど、子供だったからイマイチ何のことかピンときてなかった。ただ、米露冷戦という言葉だけは何となく記憶に残ってる。子供の頃にもらった地球儀をまだ持っているけど、今の地図とは大分様変わりしている。出来た国もあれば無くなった国もある。ロシアはまだソビエト連邦の頃だった。

ほんの2,30年前まで実際にあった事が元になってると考えると、フィクションで自国の話ではないとわかっていても身近に感じる。敗戦国である以上、日本も同じ様になってたとしてもおかしくなかっただろうし。場面転換ごとに壁にデカデカと映る日付を見るたび、当時の自分の年齢と共にそんなことを考えていた。

 

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木野 エルゴ

自由と孤独を愛する素浪人。映画と旅行、料理その他諸々趣味が多い。俳優・声優の宮本充さんの吹き替え作品ファン。

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