劇団昴「評決」に関する独り言〜脚本について〜

舞台作品としては大好きだが、実は脚本については腑に落ちない点が多々ある。今回、そして確か前回も気になる(というか腑に落ちない)ポイントは同じだった。

その時思ったことや考えたことをメモとして残しておく。もしかしたら、再演する可能性があるかも。その時はまた違った見え方ができるかもしれない。

ドナ・セントローレントについて

ミーハンのバーに臨時のアルバイトとしてドナが店に来て、初めてギャルビンにあった日。グルーバー博士に面会した日だったと思うが、ギャルビンがデボラの母親と会って原告代理人を引き受けた日から数日しか経ってないと考えるとちょっと早すぎないだろうか。

もし数日だとすると、以下の工程を短期間で行う必要があると思われる。

  1. ギャルビンの経歴を調べる(これについては調べていることが物語上明示されている)
  2. 身辺を調査し、行きつけのバー(ミーハンの店)を探りあてる
  3. 運良くバイトを募集している張り紙を見つける
  4. ドナを呼び出し、ミーハンと接触させ、バイトに採用される

ミーハンがバイトを募集してなかったらどこに行ってたんだろう。多分、客としてギャルビンに接触するつもりだったんだろうが。

というか、行きつけのバーを見つけられるのであれば、ドナを使わなくてもギャルビンを尾行して、グルーバー博士と面会している場面をキャッチするぐらいワケないと思うのだが。

そもそも、この時点では示談金の話をまだしていない。教会側はギャルビンの現状を鑑みて、ほぼ確実に示談金を受けるであろうという話をしていた。ギャルビンがグルーバー医師と面会したのも、示談金を釣り上げるネタ探しといったところだろう。

ならばドナを送り込んだ理由は?裁判にならないと踏んでいたのなら、その必要はなかったのではないだろうか。

正直、冒頭の流れは若干聞き流していたところがあるので、もっと別な理由があったのかもしれない。

証人の事を漏らした日について

モウがドナの正体に気がついた時「有力な証人を見つけてからたった6日で証人が消えた」といっていたように記憶している。つまり、ギャルビンはドナと会ってから6日以内(コンキャノンが手を回すのに1日要したとすれば5日以内)に秘密を漏らしたことになる。この時点でドナと会ったシーンは、ご飯を食べにいくといって店を出て行った時だけなので、おそらくこの時だと思われる。

プロフィー司教の提示した示談金を、正義感から啖呵を切って撥ねつけたその日に、出会って数日の美人とのピロートークで切り札を漏らしたということになる。

いくらなんでも口が軽すぎないか?

モウがギャルビンに言った台詞「彼女に嵌められたんだよ、おまえは」の説得力が非常に弱い。

どう見ても積極的に言い寄っていたのはギャルビンなんだが。むしろドナは若干迷っていたように見えたんだが。

『権力に屈しそうになっているが、正義感で立ちあがる強い人物像』を前面に押し出していただけに、この迂闊さ(というか間抜けさ)はキャラをブレさせる要因になったと思う。

コンキャノンがドナに謝礼を渡したタイミングについて

コンキャノンがドナに謝礼を渡したタイミングもよく分からなかった。審議は始まったばかりだし、この時点で正体がバレていないドナは、コンキャノンにとって十分使えるカードだったはず。教会側もこの時、ギャルビンがメアリー・ルーニーとコンタクトを取りたがっている理由を知りたがっていた。なぜこのタイミングでスパイ活動をやめさせたのだろうか。実際、この後に最も重要な証人であるナタリー・ストンバナットが見つかる。

もし仮にドナがスパイを続けていれば、モウに正体を悟られることはなかった。その上ナタリーの存在に気がついてコンキャノンに告げていれば、ギャルビンが勝つことはなかっただろう。

そう考えると、なぜあのタイミングだったのかが不思議に思える。

ドナに振るった暴力について

スパイであることが露見して、言い争いになっているドナとギャルビンのシーン。ここでギャルビンがドナを殴る。ドナが制止しなければギャルビンは警察に引き渡されていた可能性が非常に高い。そうなれば弁護士資格の剥奪はもちろん、審議も無効になりデボラ側には一銭も入らないだろう(アメリカの法曹については無知なので、公判中に原告代理人が逮捕された場合、審議がどういう扱いになるのかはわからない)全てが水の泡になる。

デボラの母親にとってはたまったもんじゃないだろう。得られるはずだった示談金は無くなり、教会や病院を訴えたことで周囲から誹りを受ける可能性もある。デボラを引き取ることもできず、子どもたちにも救いはない。

それらの可能性について全く考えず、感情のままにドナを殴ったギャルビンの行動には正直呆れた。

証拠の却下と証人の記録を抹消した件について

スウィーニー判事が、コンキャノンの証拠に対する異議申し立てを受理したことにより、ナタリーが提示したコピーは証拠として認められず、ナタリーの存在も裁判記録から抹消された。

つまり記録上、陪審員たちは病院側の過失を立証する証拠が不十分であるにもかかわらず、原告の主張を支持し、さらに賠償金の増額を決めたことになる。

「陪審員は同情によって評決を下したと、スウィーニーに言わせましょう」と言ったコンキャノンの言葉通り、病院側が上訴すれば病院側に有利な判決が降ると思う。

もし、あの場でスウィーニー判事が証拠を認めていれば、陪審員は証拠に基づいて正しい評決が下せたはず。

結局最後は情に訴えるのかと、ロジカルな裁判ドラマを期待していた身としてはモヤっと感が残るラストだった。ギャルビンの弁護士としての能力も十分表現できていない感じがする。

舞台としての完成度が高いだけに、脚本の甘さがどうしても気になった。

木野 エルゴ

自由と孤独を愛する素浪人。映画と旅行、料理その他諸々趣味が多い。俳優・声優の宮本充さんの吹き替え作品ファン。

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