劇団昴『クリスマス・キャロル』〜2023年の華やかなりし舞台の話〜

原作:チャールズ・ディケンズ
脚色:ジョン・モーティマー
翻訳:石川麻衣
台本・演出:菊池准
上演期間:2023/12/02〜2023/12/10
会場:座・高円寺1

守銭奴でエゴイストな老人エベニーザ・スクルージが、かつてのビジネスパートナーであり既に死亡したジェイコブ・マーレイの亡霊からクリスマスの精霊たちの来訪を予言される。過去・現在・未来を司るクリスマスの精霊たちは、スクルージをあらゆる時間、あらゆる場所に案内する。全てが終わった後、スクルージの胸に去来する思いとは。

一足早くクリスマスを味わえる劇団昴の舞台『クリスマス・キャロル』のざっくりとした所感。

キャスト

エベニーザ・スクルージ:宮本充
進行役:伊藤和晃
進行役/現在の精霊:牛山茂
進行役/過去の精霊:林佳代子
クラチット夫人/他:米倉紀之子
フェジウィッグ/他:山口研志
フェジウィッグ夫人/他:市川奈央子
ボブ・クラチット/他:田徳真尚
マーレイの幽霊/他:三輪学
パン屋/他:江﨑泰介
ベル/フレッド夫人/他:舞山裕子
フレッド/他:加賀谷崇文
トッパー/他:矢﨑和哉
若いスクルージ/他:笹井達規
マーサ/他:新藤真耶
書記/ピーター/他:洲本大輔
ファン/ベリンダ/他:上林未菜美
ティム/他:竹原優支(児童劇団「大きな夢」)

舞台装置について

前方左右に石造りを模した大きな入り口。

舞台奥に2階建のステージ。1階部分は主にスクルージの家の1階部分やフェジウィッグの工場などに使われる。2階部分は主にスクルージの寝室に使われる。

舞台前方部分は基本何も置かれていない。場面転換時に役者やスタッフが全ての小物や装置を配置する。素早い場面転換がこの芝居の見どころのひとつ。

衣装はヴィクトリア朝の時代考察に沿ったものなんだと思う。門外漢なので詳しくないけど。女性のドレスはきっちりしたコルセットにスカートは長い裾にペチコートで膨らんだ形。スクルージ青年時代に出てきたファンはツバつきボンネットを被っていた。市民の服でもクラチット家の女性の服装とフレッド夫人の服装では装飾や使われている布の多さに差があるように見えた。その人物がどれだけ資産を持っているか、地位があるかは衣装をみるとわかりやすい。

男性は白シャツに黒のベスト、フロックコートにトップハット。『シャーロック・ホームズ』もヴィクトリア朝時代の作品なので、ホームズが着てそうな格好といえば想像しやすいかもしれない。

ざっくりした所感

一昨年から今年まで毎年12月に今の座組の『クリスマス・キャロル』を見てきた。演出が年々シンプルになってきている。1年目は演出が河田園子さんで配役も流れも異なるから単純な比較できないけど、少なくとも去年の演出よりあらゆる要素が削られている気がする。そのおかげで流れが分かりやすくなり作品に集中しやすくなった。個人的に今年の演出の方がしっくりくる。

ただ、スクルージの幼少時代と学生時代のシーンは、他のシーンに比べて間伸びしているように感じた。舞台装置も登場人物も少ない割に尺が長いこと、それから前後を派手なシーンに挟まれてシーンの重要性の割に印象が薄くなっていることが要因かと思う。そういう意味では、実際にオウムが出てきた1年目の演出の方が個人的によかった。

ティム役の子、去年とは違う子だけど去年同様歌がうまい。歌のうまさが選考基準だろうから当然といえばそうなんだけど、それでも声の伸びがすごい。あの歌だけでも家族の団欒シーンはインパクトのあるものになってた。

その他の歌のアンサンブルやダンスも綺麗にまとまっていて明るく華やかだった。前述したセットの準備もあるだろうに、出演者は覚えることが多くて大変だったろうなと思う。

声優としても活躍している役者が多い劇団というだけあって、とにかくみんな声がいい。今まで見に行った他の劇団やプロダクションと比較してもセリフの聞き取りやすさは抜群。セリフの聞き取りやすさと現実味を感じさせる話し方は多少反比例するところがあると思っていて、芸歴が長い役者ほどその塩梅が絶妙。特に精霊も兼ねる進行役3人は流石の安定感だった。

ただ、今の座組みは今年が最後らしく、夜が明けた喜びに小躍りするあの変なテンションのスクルージが見られなくなるのは本当に残念である。スクルージと精霊のやりとりが今まで以上に真に迫って感じられたのは役者による力量はもちろん、この作品が伝えているテーマが今まさに必要とされているからだと思う。真っ当な人間なら困っている者たちにちゃんと寄付しろよ、と。人間に寄付したくないなら動物にだって建物にだって寄付できる世の中なんだから。

劇団昴で初めて『クリスマス・キャロル』を見たのは、何年前だったか忘れたけど「あうるすぽっと」で金子伸之さんがスクルージを演じた子供向けのステージだった。あの頃は本当に子供向けの朗らかな話に思えたけど、今は作品の持つテーマがあまりにも現実に起こっている問題とリンクしていてハッピーエンドの優しい話には感じられなかった。同じ作品を見ているはずなのに見る時期が変わるとこうも印象が変わるのかと驚いている。ひとつの作品を長いスパンで上演する意義が、そこにあるのではないか。

 

宮本さんがボブ・クラチットの吹き替えをした『マペットのクリスマス・キャロル』がDisney+で見られるので(加筆時現在)D+に加入してたらぜひ。

 

原作が気になる人はこちらもどうぞ。

クリスマス・キャロル (新潮文庫)

著者:チャールズ・ディケンズ
翻訳:村岡花子

 

↓↓2022年の『クリスマス・キャロル』の感想はこちら。↓↓

 

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木野 エルゴ

自由と孤独を愛する素浪人。映画と旅行、料理その他諸々趣味が多い。俳優・声優の宮本充さんの吹き替え作品ファン。

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