劇団昴 「評決 The Verdict」

原作:バリー・リード
脚色:マーガレット・メイ・ホブス
演出:原田一樹
上演期間:2018/11/29〜2018/12/03

劇団昴「評決 The Verdict」の感想。キャラクターにスポットを当てて書いているのでストーリーがどうとかは特に触れてない。キャストが異なる前回の公演も見ていたので、その時のキャラクターとの比較もちょっと書いてたりする。

フランク・ギャルビン

アルコール依存症でフラフラしているギャルビンだけど、ここぞという時のセリフをビシッと決めるところが実に主人公らしい。

フランク「あなたの代理人を務めます、フランク・ギャルビンです」

モー「相手は教会だぞ!」
フランク「あぁ。神じゃない」

わざとらしくなく、観てる方にハッと思わせる自然さがとても良い。

2度目に観劇した座席がちょうどバーカウンターの前で、ドナを口説くフランクの表情や仕草を逐一観察できたのはお得だった。グラスの持ち方、カウンターにもたれる姿、女性に向ける微笑みの向け方など、プレイボーイが様になる。ただ、ドナに冷たくあしらわれた時、他の客に向かって肩をすくめた動きは少し過剰演出のような気がした。感じ方の程度はそれぞれだろうけど、記号化された動きはやりすぎるとくどく感じる。

モー・カッツ

金子さんのモー・カッツ、緊急の代理とは思えないくらい役に合っていてとても自然だった。台詞には出さないリアクションが面白い。飄々と掴み所がなさそうに見えて、結構直情型というギャップがいい。頼もしさがありながらもちょっと抜けてるところがあったり、文句を言いつつフランクにとことん付き合ってやったり、相方として理想の人物像だと思う。

ドナ・セントローレント

林さん演じるドナは冷たそうに見えて実は情が深そうな印象がある。華やかなヒロイン像がこの作品にはよく似合っている。
ただ、1幕終わり直前のホテルで言い争うシーンが、貫禄というか落ち着きというか、出会って間もない男女というより長年連れ添った夫婦のように見えた。
あと、カフェでフランクがドナを殴るシーン、どこか唐突な感が否めなかった。突然だったこともあり、フランクが何に腹を立ててそういう行動に出たのかが分からない。

ユージーン・ミーハン

外国映画でよく見かける、年季の入った上質なバーの雰囲気が牛山さんの周りに漂っていた。聞いたところでは実際にカウンターに立っていたことがあるとか。「水のオンザロック」の言い方が洒脱でとてもいい。何も言わなくても察してくれそうな安心感は、まさしく理想のマスター。ドナに傘をさりげなく手渡す所は渋さが滲み出てて、まさにハリウッド映画から抜け出たよう。

スウィーニー判事

関さんの「三下・小者・腰巾着感」が非常にキャラクターの意図するところに合っている。下手な役者がやると面白くない。自然ではないキャラクターを、見事シリアスな作風に溶け込ませていて素晴らしい。コンキャノンが負けたのはあなたにも一因があるんじゃ…と誰もが思いたくなる。声のトーンと台詞回しのテンポの良さで、愛すべき小悪党を上手く表現されていた。

エドガー・コンキャノン

山口さん演じるコンキャノンが握手をする時の、相手をぐっと引き寄せる力強さと空いた手で相手の腕を掴む動作が、捕食対象に噛み付く肉食獣を彷彿とさせる。この動きだけで、相手にやり手だと思い知らせる。息の根を止めるまで絶対離さないと言わんばかりで恐ろしさを感じた。裁判が終わるその瞬間まで、狼狽した表情を見せないところもプロフェッショナル。

プロフィー司教

金尾さんのプロフィー司教、見た目や声から威厳が感じられて素晴らしかった。「教会の使命は、法を超えたところにある」という台詞が非常にずっしりと響く。

ギャルビンが司教と示談金について話すシーン。
ギャルビン「21という数字は3で割れますね。被害者に14、私に7。なぜこの数字に?」
司教「金額は保険会社が決めることだ」
その後のギャルビンの台詞「でしょうね」の含みある言い方が印象に残った。戦う覚悟を決めた落ち着きが台詞に乗ってたような気がする。戦う相手が大きく見えるからこそ、このセリフが際立つ。

トンプソン医師

金房さん演じるDr.トンプソン、いかにも好々爺という感じがとても役に合っていた。なんとか力になろうとする姿が健気で良い。出番は少なかったけれど、法廷を盛り上げるには十分な存在感を感じた。

ペギー

ギャルビンの秘書のペギー、ハチドリみたいに働き者な感じがよく出てた。呑んだくれのダメダメ雇い主に辟易しながらもちゃんと仕事をしてくれるあたり面倒見が良さそう。

マクデッド夫人

小沢さん、過去に観た作品の気の強い役と同じく、今回のミセス・マクデッドからも慈悲深さと芯の強さを感じた。娘を不幸に奪われながらも必死で孫たちを助けようとする「もう何も、失うものはありません」という台詞の言い回しがとてもかっこ良かった。

その他

ギャルビンがルーニーからナタリーの居場所を聞き出そうとハッタリを仕掛けたシーン、客席から笑いが起きたんだけど、どうやら他の日では見られなかった反応らしい。その後のシーンのギャルビンが、前日見た時よりも若干トーンが高く早口に聞こえたのは多少動揺していたからだろうか。

 

評決が降りた時、被告人のタウラーとクラウリーの反応が、それぞれのキャラクターに呼応していたように見えた。タウラーは自身の罪について、自覚が多少なりともあったのではないかということが、微動だにしないところから推測できる。クラウリーは反対に、あからさまな不服を前面に出して、罪悪を感じてない雰囲気が一貫して見てとれた。「彼らと共に手を洗えたことを誇りに思う」と言うセリフは、本心からくるものだったんじゃなかろうか。

 

ナタリーの出廷からの流れ、クライマックスに相応しい熱演だった。コンキャノンからの烈火のごとき尋問に必死で応えながら取り出したコピー。コンキャノンとギャルビンの激しい舌戦。ナタリーの「弁護士は夢だった」と絞り出すような言葉。証拠が棄却され、窮地の状態での最終弁論。そして評決。
市川さんのナタリーのセリフにグッときたって声が多くて納得。この台詞が観客に響かなければ作品自体が破綻するだけに、市川さんのナタリーはベストだった。

 

土曜日のソワレ、丸めた書類を酔った状態でゴミ箱にストライクさせてたフランクが、シラフの状態で外しててちょっと笑った。

2002年の映画版はAmazon Prime Videoで配信中。
原作翻訳本も販売中。

 

評決 [Blu-ray]

主演はポール・ニューマン。共演はシャーロット・ランプリング
監督は『12人の怒れる男』や『その土曜日、7時58分』のシドニー・ルメット。

評決 (ハヤカワ文庫 NV 316)

著者:バリー・リード
翻訳:田中昌太郎

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木野 エルゴ

自由と孤独を愛する素浪人。映画と旅行、料理その他諸々趣味が多い。俳優・声優の宮本充さんの吹き替え作品ファン。

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