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『Other People’s Money』 ─他人の金─
作:ジュリー・スターナー
訳:吉原豊司
演出:小笠原響
上演期間:2019/05/30〜2019/05/16
『道徳なき経済は罪悪であり 経済なき道徳は寝言である』二宮尊徳
日本って投資に関する情報があまり浸透してないようなイメージがある。だから口頭では説明が難しいマネーゲーム系の作品を舞台で上演しようと思った昴さんは凄いなというのが最初の感想。私は柴田恭兵さん主演の「ハゲタカ」やケヴィン・スペイシーが出てた「マージンコール」、同じくリーマンショックを描いた「マネーショート」などお金がらみの作品が好きなのでワクワクしながら鑑賞した。
登場人物
ジョーゲンソン
ワイヤー&ケーブルCo.を経営する社長。奥さんは亡くなっている。情に篤い頑固者。
ビー
ジョーゲンソンの秘書。工場を継いだ若き日のジョーゲンソンに惚れて以来ずっと秘書をしている。
ビル
将来会社を引き継ぐことを条件にジョーゲンソンの下で働いている。頭は切れるが先見の明に欠ける。
ローレンス
ウォール街でも名の知れた投資家、企業乗っ取り屋。女性軽視発言が目立つ。ドーナツ大好きで大柄な男。
ケート
ビーの娘。やり手弁護士。ビーに関してそれほど冷たくはないが、仕事を優先して父親を蔑ろにしたことは許していない。
田舎を舞台にしたマネーゲーム
分かりやすく言えば、利用価値は高いが誰も目をつけていない田舎の中小企業を乗っ取ろうとする投資家と、それに対抗する人達のお話。しかしその対立構造の中でもそれぞれの思惑があり、一筋縄では終わらない。
物語の中で登場人物同士が話し合いで解決しようとするシーンがいくつも出てくる。しかしそもそも「目的」が違うので話がまとまるはずがない。同じ言語で喋っていても話が通じないことはよくある。まして「自分が正しい」と思っていると相手を理解しようとする努力をしない。妥協と歩み寄りがなければ和解は成立しないのだ。
ジョーゲンソンの敗因
ジョーゲンソンの敗因は相手を知ろうとしなかったことだと思う。金子さんの良い人なんだけどめっちゃ頑固な中小企業の社長像がぴったり過ぎて途中ちょっとイライラした。きっと毎朝の朝礼は欠かさず、しかも話が長いんだろう(想像)
舞台の面白いところは、同じ作品を見ても観客個人の価値観やモラルで全く違う感想を持つところにある。私はローレンスの考え方に共感するところがあったのでこの作品の終結がとても真っ当なものに思えたが、多くの人はモヤモヤを抱えて帰ったかもしれない。
ローレンス
ちなみにローレンスの考え方に共感はするが、それが正しいとは思ってない。長期的に見れば不幸になる人間が増える。ものづくりの継承は途絶え、品質はどんどん下がる。しかし社会をゲームに置き換えるとルールを知っている人間が一番強いのは言うまでもない。遠藤さんはローレンスの傲慢さと強かさを表現しながらも「嫌なやつだけど徹底して憎めない」役として魅力的に演じていた。
ケート
ケート役の米倉さん、どちらかというとコメディタッチな印象を受けた。難しい台詞を言う役だから、台詞が入ってきやすいキャラクターで演じてたのかな。大変お綺麗でいかにも90年代アメリカドラマに出てくるやり手の弁護士という感じがした。彼女の決断は色々考え方がありそうで他の人の意見も聞いてみたい気がする。
エンディングについて
この作品のエンディング、個人的にはジョーゲンソンだけがバッドエンドだと思っていたんだけど、ビーに関してはどちらともとれる。一柳さんの演じる女性はとことん悲劇に見舞われても自力で這い上がれそうな強さがあってとても好きなんだけど、今回の役も自分の生き甲斐が残されたってところで不幸だとは思えない。
ある人と話したのだが、この作品でビルが一番立場的に辛く人間的であったのは同意する。彼のように「確固たる理念や信念を持っていない人」は、きっとどこにでもいる。モノローグのビルが現在の自分について語るシーンで石田さんのどこか諦めたように口の端を上げた表情が印象的だった。